片翼の天使 １１

「ルルーシュ？」

　何時になく真面目な顔。

「二人だけで話がしたい」

　言葉だけ聞けば嬉しいのだが、真剣なルルーシュの表情は、たぶん自分が望むものではないのだろう。

「分かった。屋上に行こう」

　アッシュフォード学園の屋上は、常に鍵が掛けられていて一般の生徒が入れないようになっている。

　だが、自分達生徒会役員は管理という名の名目で鍵を預かっているので、使いたい時に使う事ができた。

「ああ」

　ルルーシュが頷くのを確認すると、2人は他の生徒達に気が付かれないように教室を後にした。

「話ってなに？」

　嫌な事は初めに終わらせたい。

　だからこそ、スザクは屋上へ着くなりルルーシュに問いかけた。

「それは、その」

　まさか直球で聞かれるとは思っていなかったので答えに窮してしまう。

　言わなくてはいけない。でも、言いたくない。

　ココまで来て、まだ自分は迷っている。

「ルルーシュ」

　普段はニコニコとしているスザクの真剣な顔。

　ルルーシュの気持ちを汲んでくれたのだろう。

　だったら、ルルーシュも覚悟を決めなくてはならない。

　たとえ二人の関係が終わってしまうとしても。

「ああ、そうだな。逃げるわけにはいかない」

　ココは楽園だった。

　自分なんかに安らぎをもたらした楽園。

　だが、自分が本来進まなくてはならないのは修羅の道。

　正反対の世界なのだ。

　短い間だが夢を見せて貰ったミレイには感謝しないとな。

「ルルーシュ」

　スザクの声がカウントダウンのように聞こえる。

　楽園から修羅の正解に戻る為の。

　ルルーシュは大きく深呼吸すると。

「藤堂と話がしたい。会わせてくれ」

　ルルーシュは目的を言い放った。

「え？どうして？」

　どうして藤堂さんを知っているの？

　いや、どうして、その話を僕に振るの？

　どうして？

　君は誰？

　どんな目的があるの？

　ルルーシュの予想外の言葉に、スザクは混乱してしまう。

　

　どうしてと？

 

「藤堂に会わなくてはならない」

　そのためにココにいるのだ。

　兄の命を受けて。

　自分の意思で。

「君は敵なの？それとも味方？」

　敵でない事を祈りたい。

　でも、今の自分達の状況と、ルルーシュがブリタニア人だという事を考えれば、最悪の事態しか思いつかないのだ。

「俺の言葉など信じて貰えないかもしれないが、敵ではない」

　藤堂の名を出した時点で警戒されて当然だ。

　ただ、今の時点では敵ではない。

　それだけは信じて貰いたかった。

「ゴメン。僕には判断できない」

　ルルーシュの言葉を信じたい。

　だけど、簡単に信じる訳にはいかない。

　自分は日本人のテロリストで、ルルーシュはブリタニア人なのだから。

　それが酷く辛かった。

「そうだな。仕方ないだろう」

　簡単に信じてもらえてると思わなかったが、思った以上にショックを受けている自分がいる。

　スザクならと、何処かで期待していたのかもしれない。

「君の目的は何？」

　会わせるか会せないかの前に、目的を知らなくてはならないだろう。

　目的によっては、敵として排除しなくてはならないかもしれない。

　その時は、自分の心も壊れてしまうような気がするが。

「最終的な目的は言えない。だが、その過程において日本を取り戻す事も可能だ」

　そう、スザクに日本を返してやる事ができるかもしれない。

　その為にも、どうしても藤堂に会わなくてはならない。

　全ては、そこから始めるのだ。

「僕には難しい事は分からない。だから、率直に聞くね」

「ああ」

「君は、この地で何をしようとしているの？」

　真剣なスザクの瞳。

　嘘や誤魔化しなどきかない。

　だったら、真実を話そう。

　それが、自分の信頼に繋がるのだろう。

「クロヴィス総督の失脚だ」

　そう、それが自分に与えられた任務だった。

「え？」

　思いもかけない言葉だった。

　まさかそこまで規模の大きな話になるとは思わなかったのだ。

「クロヴィスの皇位継承権を剥奪したい」

　それが望み。

「えっと、どうしてって聞いて良い？」

　何か話が大きすぎてついていけないんだけど。

　そてと、日本を取り戻す事と、どう繋がっていくんだろう？

「それは……」

　言っても良いのだろうか？

　言ってしまえば、スザクを巻き込む事になる。

　いや、この話をした時点で巻き込んでいるか。