愛しき姫君 ８

愛しき姫君　８「ゼロの怪我」



　左腕に怪我をして追い込まれたゼロだが、絶対絶命のピンチを救ったのは紅月兄妹だ。
　一般人よりも遥かに高い身体能力を持つ兄妹の出現に、スザクとしても引き下がるしかなかった。
「すまない」
　左腕を押さえながら言うゼロに、カレンは気が気じゃない。
　ゼロに何か有れば黒の騎士団の存続はおろか、ルルーシュだって悲しむ。
　特にルルーシュを悲しませたくないという気持ちの方が強い。
「そんな事言わないで下さい。それより早くアジトに戻って怪我の治療をして下さい」
　血が流れている。
　ルルーシュが悲しむじゃないですか！
「分かった」
「脱出経路は扇が確保している。急ごうゼロ」
　先頭にナオトが、最後尾にカレンが。
　お互いにゼロの身を心配しながらも全力で走り続ける。


　ナナリーの奪還失敗。
　ゼロの負傷という結果だったが、幸いなことにそれ以上の損害はなかった。
「ナナリーを連れて来れなかったのは辛いな」
　あの子が悲しむ。
「「ゼロ！」」
　怪我の治療が終わった第一声に紅月兄妹から非難の声が上がった。
「仕方ないだろ。ナナリーの奪還が目的だったんだ」
　それが失敗したのだ。
「ナナリーを連れて来れなかったことより、貴方の怪我のことでルルーシュが泣くとは考えないのですか？」
　っていうか、絶対に悲しむ。
　ルルーシュとはそういう存在なのだ。
「それは・・・・」
　そうかも知れないが、
「ゼロ、俺達のリーダーはお前しか居ない。お前だからこそ俺は全てを託したんだ」
「分かっている」
　自分が黒の騎士団のトップだという自覚はある。
　それでなくてはブリタニアに勝てない。
「「分かってない」」
「分かっていたら怪我なんてしないで下さい」
「個人的に動くのは構わない。ゼロだって人間だ。感情があって当たり前なんだ。だが、もう少し俺達を頼って欲しい」
　最後の最後でゼロが一人になったのは、陽動という名目では有ったが、他のメンバーを巻き込まないとする優しさだった。
「・・・・・・・・・」
「「ゼロ！！」」
　二人に同時に詰め寄られてはゼロも形無しだった。
　二人とも真剣にゼロのことを案じているのだ無下にはできない。
「・・・・分かった」
　渋々頷くゼロをみて、
「怪我のことはルルーシュに話しますからね」
「なっ！ダメだ」
　そんなことをすれば、ルルーシュが心配する。
　心配させたくないからこそ黙って作戦を立てたのだ。
「絶対に言います！そうでもないとゼロが反省しないのは分かっています」
　私だってルルーシュに怪我の事を言って心配させたくないのだが、このままではゼロが本当の意味で反省しないのは分かっている。
「だが、」
　あの子の悲しむ姿は見たくない。
「ダメです。絶対に言います」
　ゼロに反省させるために。
「なぁ」
　それまで黙っていたナオトだが、神妙な面持ちで割り込んできた。
「何？」
「何だ？」
　真剣すぎる面持ちに、少し引きながらも二人は聞いてみた。
「ルルーシュって、前に俺が見た可愛い美人さんだよな？」
「可愛い美人さんて・・・」
　確かにルルーシュには当て嵌まるが、兄もルルーシュの事を知っているのだろうか？
「そうだ」
　カレンが疑問に思っていたところ、ゼロの憮然とした声が聞こえてきた。
「やっぱり！カレンもルルーシュちゃんと知り合いなんだ？」
　思わぬ展開に、カレンとゼロが嫌な予感に襲われた。
「だったら何？」
　まさか、でもルルーシュなら・・・・
「紹介してくれ！」
　期待通りというか、思っていた通りの展開に、
「「ダメ」だ！」
　二人の声がハモった。
「大事なあの子を誰がやるか！」
　この男は、まだ懲りてなかったのか？
「ルルーシュと兄さんなんて全然釣り合わないんだから！」
　ルルーシュ程の美人と兄さん程度が釣り合うわけない。
　って言うか、ルルーシュはゼロの物なのに。
　横恋慕なんてさせないんだから！！


　二人の思わぬ剣幕にタジタジになりながらも、どこか諦めきれないナオトだった。
　軽く言いながらも、思いの外ルルーシュに想いを寄せていたのだ。
　だが妹からも言われては、今度こそ諦めるしかないのかも知れない。
　遅い初恋は消え去っていった。



☆嘘を付きました。本編では出さないと言っていたナオトさんを出してしまいました。
　ゴメンなさい。
　ナオトさんの遅い初恋話は書きませんが、ゼロとナオトさんのルルーシュ絡みの会話は書く予定です。
　現在（７月17日）の拍手の続きとして、来週辺りにアップします。